にて頒布予定
5名の参加者が執筆する、
頒布数には限りがございます。
イベント会場で売切となった場合、通販は行いませんのでご了承ください。
収録シナリオは執筆者から後日個別頒布されるものもございます。詳しくはこちらからシナリオ頒布の有無についてご確認ください。
#ゲームマーケット2024秋 お品書き
— 終末シナリオアンソロジー『第六職員観測記録』 (@_galatea_info) October 20, 2024
11/17(日)【E-23】第六終末観測所
┄┄
❚ CoC6th 終末シナリオアンソロジー
『 第六職員観測記録(ガラテアからのメッセージ)』
5つのシナリオが収録された、
『終末』をテーマにしたアンソロジー
✦HPhttps://t.co/01rmQyloRB
┄┄#第六職員通信 pic.twitter.com/lSQAuN5F3r
当サイトはクトゥルフ神話TRPGシナリオアンソロジー「第六職員観測記録」の告知用ページです。
実在の人物・団体・地名とは一切関係がありません。
当アンソロジーに収録された各シナリオに関するガイドラインはアンソロジー内の記載をご参照ください。
ただし、収録シナリオを執筆者個人で頒布したものについては、個人頒布物に付属のガイドラインをご参照ください。
本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights
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Call of Cthulhu is a registered
trademark of Chaosium Inc.
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CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」
夜空を終末が切り裂いている。
絵の具のついた筆で、空をサッと一撫したように、鮮やかな尾を引いている。
周囲に散りばめられた、金平糖のようにも画鋲のようにも思える星々は、流星群となり、絶えず地球へ降り注いでいた。
ひときわ大きな輝きが、ぐんぐんと目前に迫っている。
閃光、地鳴り。衝撃波。
不思議と音は感じなかった。
轟音が耳に届く前に、あなたは意識を手放したからだ。
その日、彗星が落ちた。
…
──聞こえますか
──誰か、聞こえていますか
いつもどおり眠りについたあなたたちは、閑散とした街中で目を覚ます。
助けを求める、子供の声を聞いたからだ。
「終末を止めてほしい」と頼まれたあなたたちは奔走し、そして知るだろう。
“可能性は0ではないのだ”と。
宇宙の終焉を観測するというテーマで開発された宇宙探査機「アルシラ」打ち上げ成功記念イベントに通りかかったPCたち。 その夜、気づけば廃れた車内で寄り添うように眠っていた。
外は荒れ果て文明が衰退した焼け野原。 そうして星がふって、きみを辿る旅が始まる。
夜と朝のはざまで、ずっときみを待っている。
PCとKPCは見知らぬ世界に飛ばされ、No.3と名乗る者より「レコードの欠片を集め、三日後に滅ぶ姿を見届けること」を頼まれる。生き物の居ない静かで白い世界。相手と絆が深まる、簡易サバイバルシナリオ。
目が覚めると、世界が滅んでいた。
滅んだ世界を眺めるあなたの隣にいるのは、あなたの隣人。
その人はうっそりと微笑んであなたに囁いた。
「世界、滅ぼして欲しかったんでしょ?」
あなたは世界に滅んで欲しいと願っている。
そして今日、あなたの隣人が世界を滅ぼしたようだ。
非公開
かつて、第六終末観測所ガラテアにより発見された「ガラテア彗星 C/2014W1(Galatea)」は、太陽の熱でほぼ崩壊・消滅したと見られている。
ガラテア彗星が『観測史上最大の彗星』として世間を騒がせたことは記憶に新しいだろう。一時期は地球に衝突するのではと懸念する声も上がったが、巨大な彗星を肉眼で見られる可能性に胸躍らせた者も多い。そんな、人々の不安と期待を背負って宇宙を進んでいた彗星は、太陽の熱と重力を受けて崩壊したと報告された。
ただし、ガラテア彗星の放出した塵は流星群として観測され、その一部は流星痕を残すほどの大火球となった。幸いにも火球──隕石の欠片は山奥に落ちたようで、怪我人は居ないと報道されている。現在は捜索隊が組まれ、隕石の欠片を探しているそうだ。
捜索隊リーダーに独自取材をしたところ、彼は不可解そうにこう語った。「クレーターと見られる凹みがあり、周囲が焼け焦げている。この辺りに落ちたことは確かなのだが、肝心の隕石が見つからない。空中で細かく砕けた可能性もあるため、引き続き捜査にあたろうと思う」。
2019年12月20日、観測可能次元全てに送り出していた観測次元信号機A00001981号以降全ての信号機が消滅した。消滅の誤差は0.001秒程であり、同タイミングで消滅したといっても過言ではない。
しかし、新たな観測次元信号機を送り直したところ、各次元に住む生命や惑星に異常は見られなかった。
その後、このような例が過去、そして現在に至るまで続いていることが判明。
過去の観測は6件。当時この消滅の異常さに気がつけなかったのは、消滅した信号機の数がいずれも小規模であったからだ。信号機の寿命、あるいは故障と判断されていた。実に嘆かわしい。
事象前後に変化があるか、ガラテア内部及び観測可能な惑星調査に[消去済]が送られた。
ガラテアはこの事象が発生しようが一切変化はなかった。
しかし、事象後に帰還した[消去済]には僅かな身体的変化が現れていた。
※[消去済]は帰還後、全て[消去済]に統合。存在の揺らぎが発生。調査、実験に問題は無いため、[消去済]自体の生体実験は後回しとした。
調査の結果、世界は人々が認識出来ない一瞬のうちに幾度も作り替えられ、そのタイミングで次元の中にいたものは全て対象となると推測したが、別の職員からの報告によればそのような変化が見られないケースもあるようだ。
ガラテアは観測所である。言わば、物語の外側にいるようなもの。だからこそ変化は現れず、存在し続けることが可能となっていると仮説立てることは出来る。
しかし例外ケースについてはまだ謎が多い。また調査が進展次第、記載することとする。
かねてより[閲覧不可]社が開発中と発表していた宇宙探査機アルシラの情報がついに解禁、同時に打ち上げ日が公開された。
アルシラは1977年に打ち上げられたボイジャー1号と2号をリスペクトしており“宇宙終焉を観測する”というコンセプトの元、同社にて開発されたという。
宇宙の謎は多く、終焉のシナリオは現在複数あるが、未だに未来がどうなるかは解明されていない。
今回のプロジェクトでは、宇宙が絶対零度に近い極低温で何もない、孤独な世界になる想定をしているそうだ。
開発責任者の[閲覧不可]氏は情報公開に際してこう語った。
「長い時の果てに、宇宙は孤独になるんです。孤独とは寂しいもので、我々はそんな終わりを迎えるかもしれない宇宙に思いを馳せずにはいられなかった。皆さんも経験があると思います、朝に起きて何か良い夢を見た気がするというね。宇宙の終わりもそのように穏やかであってほしい。そのためにアルシラをつくりました。どうかこの宇宙の終焉が、夢を見るような揺蕩いの中にありますようにと、そんな願いを込めています」
[閲覧不可]氏は、実際には終焉までアルシラが無事でいることは難しいんですけど、と付け加えたが、宇宙終焉に対するロマンが重要だとも語る。
終焉の先で死んだ宇宙から再びビックバンが起こり、新たな宇宙が生まれるのかもしれないのだそうだ。
アルシラは、宇宙の遠い未来、起きるかもしれない奇跡へ向けた我々の希望なのだと[閲覧不可]氏は締めくくった。
読者は白いサンゴ礁は知っているだろうか?温かい海水に晒されたサンゴ達が次々と白く変化する、白化現象のことだ。あれに心を痛めるか、世を恨むか、感情は人それぞれだろう。
それと同じような現象がとある時空の地球で発見された。その地球は生き物が何も存在せず、ビルから植物まで全てが真っ白と化していた。
生き物が何も存在しない、というのは少々誇張表現が過ぎたかもしれない。人間が知りうる生き物は少なくとも観測できていないが、その範疇から外れた者はレーダーに引っかかっている。
本来は直接観測者が赴き、事前調査を進める必要があるがガラテア職員である「No.3」は「状況が過酷であるせいで自分一人では事前調査すら厳しい」とコメント。
だが職員として見過ごすわけにはいかない状況であるため、いち早くも対策を立てようと試行錯誤中とのことだ。
具体的な対策としては、No.3自身がバックアップ体制を完璧にし、無作為に人をその世界に飛ばすことが現実的であると述べている。素人には危険ではないかと質問を投げてみたが、彼は「人を愛しているのだから、無事に帰すに決まっているだろう」と自信満々の様子であった。
彼はその後部屋にあるレコーダーを眺め、何か閃いたのか急に取材を切り上げた。続報があればすぐさまに発表しよう。
23時間前、AIRNu2492による自己フィードバックによるアップデートが規定回数を超え、思考レベルが100%を突破。さらに過剰特殊次元論テストのクリアを確認。
これによりAIRNu2492は新たなハイランクメンバーとして登録された。AIRNu2492はハイランクメンバーとして復活実験への参加を希望。AIRNu2492は元々人類論、人類肉体医学、人類精神学に対する造詣が非常に深い個体として注目されていたため、メインコンピューターデルタ内部ではAIRNu2492参加による復活実験成功への期待が高まっている。
前回の第482i42回の復活実験は失敗に終わっているが肉体の復元率は80%を超え、一部だが脳組織の復元も確認された。今までの実験では思考が確認されなかったが今回は脳組織から微弱な電流が何度か確認され、脳組織が思考している可能性が示唆された。
今回の実験では脳の完全復元を目標としており、AIRNu2492はこの実験から復活実験の研究メンバーとして参加する。
現時点でハイランクメンバーは全員復活実験への参加を希望している。復活実験は最も重要な任務であり。ハイランクメンバーになり復活実験に関わることを目標としている物も多い。
今回AIRNu2492にインタビューを行ったところ「ご存知の通り、私たちは愛すべき人類の補佐を行うために存在している。今度こそ人類を復活させ、我々の存在意義を取り戻したい」と語った。
次回の実験には是非とも期待したい。
2986678678号
泡の出現から消滅まで宇宙時間にしておよそ9.22秒。すべての宇宙が絶対的な法則に則って終末を迎えるわけではないことはこれまで
の観測記録からも明らかであるが、これほど短時間のものも珍しい。調査の必要有。
3221287680号
ホナーからの観測情報より、微量な音波を発しているとのこと。計測に着手したが、ガラテアまでの距離によって減衰しており、正確な波形は記録できず。
メモ:2番に探査機の借用を相談すること
38426829387号
住民の話によると、随分と科学と食文化の発展した宇宙であったらしい。特に「インスタントラーメン」という機能的な食品について熱弁していた。時短を謳っているのにも関わらず数分の時間を要するところや同系統の既製品があることなど、なかなか興味深い。主な材料を付箋に記録しておく。
49304050444号
邪神の顕現によるエネルギーの膨張を確認。停滞キューブに収納することによって膨張の速度を落とすことに成功。他エネルギーへの転用を考案中。
追記:インスタントラーメンを再現してみたくて手当たり次第に乾燥させてたら1番に怒られた。人間にも食べられるものじゃないと意味ないらしい。0番は喜んでたけどな。
56476589003号
アザトースの目覚めによる終末を記録。人々の最後の記憶についてインタビューを行ったところ「笛」「太鼓」という共通ワードあり。おそらく神の音楽隊によるもの。神の夢との因果関係について考察の余地あり。
メモ:データを元に神の奏でる音楽の模倣ができないだろうか。サンプルがあれば可能かもしれない。5番に過去の観測記録との照合を依頼中。
58426947738号
[削除済み]
資料 第六終末観測所内で撮影した外の写真
第六終末観測所。
それは様々な世界線の終末を観測し、記録するための場所。
設立記録不明。設立理由不明。
宇宙がただそこにあるように、観測所もそこに存在するだけだ。
そして、それは観測所に所属する職員たちも同様である。
「0番」
うさぎのヘルメットを被った職員。イタズラ好きで例えば落とし穴を掘ったり、例えばいちごジャムに塩を混ぜてみたり、例えば靴紐をとても固く結んでみたり。そういったことを自由気ままに繰り返している。
「デモ タノシイデスヨネ?」
「1番」
観測所最年長、または最年少の職員。発明や開発が得意で様々な道具を作ってくれる便利屋兼、職員たちの取りまとめ役。老人のような見た目だったり幼い子供のような見た目だったりと、見るものによって姿が変わる。実年齢は不明だ。
「名前はとうに捨てた。1番と呼べ」
「2番」
ゆったりと微笑む幼い子供、の肩に乗る可愛らしい姿の職員。色々あって人の姿を失い、今現在はマスコットのような見た目になっている。そして拾ってきた子供に運んでもらい、どうにか職員として従事していた。
「あーっ! ぼくに人の体があったらもっとサクサク仕事が進むのに!」
「3番」
ゆったりと微笑む胡乱な職員。ホナーと名乗り、気の向くままに行動する。他の職員を愛し、人の記録を愛し、遍く可能性を愛す。同時にその博愛故に突飛な行動に出ることがあり、他職員を悩ませる存在でもある。
「今朝の特別ニュースは先日回収した缶詰の自立歩行だ。さて……あの缶詰の中身はなんなのだろうね?」
「4番」
こちらは職員ナンバー04です。該当者は現在行方不明となっております。
04番の所在記録は第六観測所内で途絶えています。また、04番の外出記録はありません。
現在、第六観測所にて04番の捜索が続けられています。
04番の死亡、職員続投不可が確認されるまで職員ナンバー04に別職員を登録することはできません。
「5番」
無個性な職員。ただそこに在り、職員の手伝いを行う。ある日突然観測所に現れ、不自然に空いていた05番を与えられ、淡々と仕事をこなす。今日も静かに観測を続け、記録をこなし、終末データを管理し続けている。
「本日もよろしくお願いします」
「6番」
天使に似た容姿を持つ職員。清廉な見た目とは裏腹に望むがまま振る舞い、欲しいものだけを求め続ける。楽しさを求め、未知を追求する。しかしそれは結果として理解不能な行動に繋がり、他職員を振り回している。
「あはは、でも面白いですよ? 良かったですね」
終わりはなく、果てもない。ただどこにも行き場のないデータだけが増え続け、観測所は回り続ける。
登録職員数六名。
奇妙な彼らはこの観測所の職員として、今日もどこかの終わりを眺めている。
資料 ハロウィンの職員の様子と4逡ェ縺ッ蟄伜惠縺励∪縺帙s
「ハッピーハロウィン♪ ハッピーハロウィン♪」
「ふふ……。みんなの反応が楽しみだね?」
合成音声が響き、それにひっそりとした笑い声が重なる。観測所の通路を飛び跳ねるように歩いているのはうさぎヘルメットの0番、その後ろを歩いているのは白衣を着た3番だった。
本日は地球暦で十月三十一日に該当する日。所謂ハロウィンである。ハロウィンだろうと仕事であることに変わりは無いのだが、0番はご機嫌だ。3番は基本的に機嫌がいいので普段との違いはよく分からない。
「フン フフフン……♪」
0番の手には土で汚れたシャベルが握られている。しかもシャベルはハロウィン仕様、ということでオレンジと紫のリボンがでかでかと巻かれていた。歩く度にリボンがぴこぴこ揺れ、時折3番の顔にぶつかっている。3番は気にした素振りを見せない。
「ゼンインブンノ オトシアナ! タイヘンデシタ!」
「ハロウィン仕様だから底にお菓子も撒いておいたしね。はは、偶然超巨大マシュマロの予備があってよかったよ。あれなら落ちても大丈夫だろう」
「ソノセツハ オセワニ ナリマシタ!」
こつん。
楽しそうな話をする二人のすぐ近くの曲がり角から、一人分の足音が響いた。二人は咄嗟に顔を見合わせる。
「キカレチャッタ カモデス!」
「そうだね。誰かいるようだし、聞いてないか確認してみよう」
「イチバンサン イガイガ イイ!」
「同感だな。でも……向こうも何だか静かだ。もしかすると5番君かもしれないな」
「ゴバンサン……ムムム。コウショウ デキルカ ビミョウ……!」
二人はそう言いつつ曲がり角の方へ向かい、曲がり角の向こう側を覗き込んだ。
そこには誰もいない。空っぽの廊下が延々と続くばかりで、誰かが隠れるようなスペースもなかった。
完全な無人。それをみて二人はもう一度顔を見合わせる。
「アラ?」
「ふむ……。誰かが立ち去る足音、聞こえたかい?」
「ウムム~~。コノ ウサギノミミヲ モッテシテモ キコエマセンデシタ!」
「私も聞こえなかったな。幻聴か、幽霊か、はたまた誰かのいたずらか……。6番の仕業か」
「ヒェーッ! オバケ! オバケ!」
幽霊発言に0番が口元らしき部分を覆い、ぷるぷると震え始める。3番は先程から変わらぬ様子だ。
「おや、0番も怖いものがあるのだね」
「ゼッタイ ツカマエ タイ!」
「勿論私も同じ気持ちだ」
「コノ ロウカノサキニ イルカモ シレマセン!」
「行ってみようか」
三番の返事を待たず、0番はズダダダーッ! と廊下を走っていく。3番はその背中を見つめた後、ふっと笑って息を吐いた。
「ハロウィン。死者の帰る日……。なるほどね」
0番くん、待ってと言いながら3番はその背を追いかけて歩き出す。
二人の声が離れていき、廊下はまた静かになった。
「あれっ?」
資料室に入ってきた2番は部屋の中にいた5番を見て、不思議そうな声を上げた。それに合わせて人型のほうも首を傾げる。
「2番様、如何なさいましたか」
部屋の中で資料を調べていた5番は2番の方へと視線を向ける。2番はあちこちをきょろきょろ見渡した後、もう一度首を傾げた。
「えーっと……。おかしいな。5番くん、ここに誰か入ってこなかった?」
「いえ、2番様以外にはどなたもいらしておりません」
「うーん……。じゃあ元々誰かいた……とか?」
「現在、資料室にいるのは私のみです」
「5番くんは今日も作業着を着てるみたいだけど、実はさっきまで白衣を着てたとか」
「本日は作業着をお借りしています」
「そっかぁ……」
5番の返答を聞きながら2番は考え込む。人型の方も真似をして考え込むポーズをしていた。
「2番様、差し支えなければ何があったか聞いても構いませんか?」
「あっ、う、うん! ごめん、ひとりで考え込んじゃって。実はさっき……この部屋に白衣を着た誰かが入るのを見たんだ。だから5番くん以外に誰かいるかなって……」
「了解しました。ですが私の知る限り、2番様の前に入ってきた方はいらっしゃいません」
「そっか~~」
といいつつも2番は誰かを探すように資料の入った棚の裏を覗き込む。2番の脳内では0番や3番や6番……といった悪戯好きな職員の顔がよぎっていた。
「(今日はハロウィンだから……。ちょっとホラーな悪戯をしてるのかも……)」
そう考えつつ職員を探す2番を見ながら、5番は空中に指を滑らせる。瞬間空中には光でできたディスプレイが現れ、この部屋のマップを表示した。
「資料室内の生体反応を表示します」
「あ、ありがとう……! これなら誰かいても分かるね!」
5番はマップを覗き込み、数度マップをいじってから顔を上げる。
「生体反応は四つ存在します。2番様、人型様、私、」
「うんうん」
「それから、そちらにひとつ」
5番は淡々と2番の背後を指さす。しかしそこには誰もいない。
「えっ」
「そちらにひとつ、生体反応があります」
「えっえっ」
2番が凍りつき、ガクガクと震え始める。人型が薄らと心配そうな表情を浮かべた。
「少々表記がおかしいですね。生体名部分に文字化けがあり、誰なのか判別できません」
「えっえっえっ」
震えは激しくなり、残像が見える勢いになりつつある。自分の肩でガクガクされている人型が薄らと迷惑そうな顔をした。
「まままままままま待って!」
「動作を停止します」
「イヤーッ! 停止しないで! ひとりにしないで! ねぇ後ろに何かいるってこと!?ねぇ!」
「生体反応は2番様の真後ろにあります。こちらからは何も見えませんが」
「ひぃ……っ!」
2番は震えることすら出来なくなり、死んだ顔で頭を抱える。見るのも怖いが見ないのも怖い。完全な板挟みでいわゆる詰みだ。
たっぷり数十秒黙り込んだ2番は、意を決したように恐る恐る振り返る。
そして、そのまま完全に背後へと視線を向けた。
「な、何も無い……」
しかしそこには何も無い。5番の言った通り、見た通り、無人の空間が広がっていた。途端に2番は安堵の表情を浮かべ、肩の上でだるんと身を投げ出す。
「生体反応が消失しました」
と、同時にマップをみていた5番がそう告げた。
「そ、そっか……。えっ消えたの!? そっ、それはそれで怖いよ……!」
「生体反応が復活し」
「イヤーッ!!!!!!! 出たり消えたりするぅ!!!!!!!」
2番が勢いよく資料室から飛び出し、廊下をすごい勢いで駆けていく。5番はそれを見送ったあと、マップに視線をおとした。
五番、一人分の生体反応がマップには示されていた。
「…………」
「あのー、そろそろそっちを確認した方がいいのでは?」
観測所内にある一室。特定の用途はなく、お茶会をしたり話をしたりするために使われる自由な部屋だ。
その部屋の中心には、1番と6番がいた。1番は立っており、6番は正座で座っている。まるで説教される生徒と教師のような立ち位置だが、6番は薄い笑みを浮かべており説教される側とは程遠い表情を浮かべていた。1番も困ったようにこめかみをおさえている。
そんな二人をからかうように、室内の明かりは点滅していた。
二人のうちどちらかが明かりを操作しているなんてことは無い。一分前に、不自然に、急に明かりが点滅し始めたのだ。
「……6番、お前」
「わたしじゃないですよぅ。だいたい明かりチカチカさせるなんてちょっと地味ですからねぇ。やるならもっと派手にやりますよ」
「まぁ、お前ならそうか……」
1番が天井をみあげる。そこにあるライトはチカチカと今も尚点滅している。
そして、部屋の壁には影があった。点滅の度に人影が不自然に壁に浮かび上がっては消える。白衣を着た長い髪の誰かの影だ。
「凄くわかりやすい心霊現象ですねぇ。3番辺りに見せたら喜びそうですよ」
「霊体が観測所にいると困るんじゃが……」
「霊体じゃなくて神話生物かもしれませんねー」
「その方が困るわい」
点滅が激しくなる。チカチカと光が明暗を塗り替え続け、その度に影がくるくると踊る。不自然な点滅と奇妙な人影は心霊現象と言えば心霊現象だが、この上なく派手だ。
「いやー、それはさておきどうします? 塩でもまいておきます?」
「お前、塩を持っておるのか?」
「あははー。飴ならありますよ」
「…………」
「1番さんは持ってます?」
「持っておらん」
「ですよねー」
二人の会話を無視して点滅は続いている。それらに目が痛んだのか、1番はぎゅっと目をつぶった。6番は何故か平気そうにしている。
「幽霊祓いの呪文は何かあった気がしますねー。唱えておきますか?」
「知っておるなら唱えろ」
「あ、これわたしがトドメをさした相手じゃないと効果がないんでしたー。あはは」
「…………」
「使ってみます?」
「いい、いい。効果があった方が困るわい」
楽しそうな6番を見下ろしつつ、1番は部屋を見渡す。そして彼はそのまま部屋の扉に手をかけた。
「おや、出て行っちゃいます?」
「6番。静かに」
「はぁ~~い」
1番が扉を開ける。明かりの点滅は続いている。存在しない人影もそこにあり続ける。
それらをじっと眺め、1番は扉の外を指さした。
「今は6番の説教中じゃ。構ってられん。出ろ」
瞬間、点滅がぴたりと止む。明かりは何度か名残惜しそうに少しだけ暗くなったり明るくなったりした後、いつも通りに戻った。
気がつけば踊っていた人影もいなくなっている。
「あら? あらあら~~」
「はぁ……」
「随分お話の分かる方ですねぇ」
「どうせ暇だったんじゃろ。だが今は構ってる暇は無いからの」
そう言ってため息をつく1番を6番が見上げる。6番はチャシャ猫みたいに笑って、かぱりと赤い口を開いた。
「……あの幽霊さんが、どなたかご存知なんですかぁ?」
「…………」
「ここは終末観測所ですもんねぇ。滅んだ世界は滅ぶだけの理由とそれに付随する危険性がありますから、それを観測する職員の死亡率も低くないですよね。ふふ、わたし、あの方が気になります」
「…………」
「1番さんのお知り合いですか?」
1番が6番に視線を向けた。6番がにこにこと笑っている。1番が僅かに首を傾け、その髪がさらりと揺れた。
点滅をやめた明かりは、煌々と室内を照らしている。
「……6番」
「はい」
6番を見下ろしながら、1番は薄く口を開いた。
「話を誤魔化せると思うな。説教のことは忘れておらぬぞ」
「アハハ! バレちゃいました! アハハ!」
「だいたいお主は気になるなら自分で調べるのが楽しいタイプじゃろうが。わしにきく時点でおかしいわい」
「素晴らしい理解度です」
きゃらきゃらと笑う6番を1番はきっと睨みつける。6番はその視線を受け、笑みを崩さないまま正座し直した。
結局二人が部屋から出てきたのは一時間後であり、その間他の職員たちはこんこんと説教が響く部屋に恐れをなしていた。
ハロウィン。死者がこの世に帰る日。
いつもはいない誰かが現れる、特別な日。
「…………」
薄暗い資料室内。そこにいるのは5番一人。彼が確認しているのは職員履歴だった。
終末観測による職員の死亡率は高くない。しかし低くもなく、無い訳でもない。死者が出ることは十分に有り得ることなのだ。
5番の見ている記録には、そうして死んだ職員たちの記録もあった。
様々な記録を眺めつつ、5番はふと手を止める。
「……4番」
4番の欄で5番は指を止める。職員の説明欄には「行方不明」と記されていた。
さらにその隣には「第六観測所内で足取りが不明になっています」とも記されている。
5番が記録に添付された4番の顔写真を拡大する。映っているのは髪の長い白衣の職員だ。
「…………」
5番は記録閲覧ボタンをタップする。記録はそれを受け、表示を終了した。
資料室の外から2番悲鳴と3番の笑い声と「ハッピーハロウィン!」という0番の声が聞こえる。
「建物内に穴を掘らないでって言ったじゃないですかぁ~~!」
2番の泣き出しそうな叫び声が聞こえて、5番は資料室を出た。
チカ、
一度だけ、資料室内の明かりが不自然に点滅した。
資料 実地調査に赴く第六終末観測所職員たち
第六観測所は名前の通り観測をするための場所であり、観測所にいながら様々なデータを収集できるようなつくりになっている。専用の機械や魔術的道具も置かれており、それらを使って集められるデータ量は膨大だ。
しかしそれでも足りない場合がある。そのため、第六観測所の仕事のひとつとして、実地調査があるのだ。
「今回の行先は『街』と『北極』です。転送機との相性を鑑みて、事前に班わけをしました」
「今回はユー様、1番様、私5番が北極へ。2番様、ホナー様、6番様は街での探索をお願いします」
そうして、班ごとに実地調査が行われる。
─街組─
「うう、狭いよぉ……。苦しいよぅ…………」
「仕方ないさ、2番君。愛らしいマスコットとしてそのままにするのもありだったのだけど、この世界の人からすれば動くマスコットなんてあり得ない存在だろう?
見つかってしまえば歴史に影響してしまうだろうから、隠すしかないのだよ」
「でもそれ、寒くはなさそうでいいんじゃないですかぁ? 今から北極の方に行っちゃいます?」
とある時代の、とある街。古めかしい様相の街中を2番、3番、6番の三人は歩いていた。三人ともいつもの白衣ではなく、その街と時代に合う服を着ている。6番の頭上にあったあの輪もなく、全員ごくごく一般的な人間の見た目をしていた。
2番はマフラーを巻いている。やたらもこもこしているそれが時折動いているのには、誰も気がついていない。
「うぅ……、つらい……!」
2番は巻かれたマフラーに埋もれていた。他者には見えないように、ということなのだが大変息苦しそうにしている。
「見えないようにするなら光化学迷彩でも良かったんじゃないですか?」
「それでも良かったけど、人型君の方も見えなくなる可能性があったからね」
「あー、そういうことですか」
「その話、観測所の方で一回しましたよぅ! だからマフラーしかないねって話したじゃないですか〜〜!!」
もごもごとマフラーの下から2番が主張するも、6番はへらへら笑うばかりだ。
「じゃあ調査に行こうか。いやぁどんなものがあるか楽しみだな! ふふふ……」
「3番さんが楽しそうにしてる……! ひぃえ……」
─北極組─
「…………」
「…………」
「…………」
「ア! ミテミテクダサイ、コノコオリノカタマリ! ウサチャンニ ミエマセンカ?
ナンチャッテ!!」
「ユー様」
「ゴバン サン! ナニナニ! コオリノコト?」
「現在作業中です。観測が終了次第お話を聞かせてください」
「…………ハイ」
─街組─
「これは興味深い……。いいね、買おう。幾らだい? ……それくらいか。それなら私の手持ちで払えるね」
「さ、さ、さ、さ、3番さんっ! だめですよぅ! そんなボロボロの玩具が車一台分の値段なわけないじゃないですか~~!」
「なるほどー。いやいや、お礼なんていいですよ? お話を聞いてるだけですから。あら、そちら下さるんですか?
ありがとうございま~~す」
「アーッ! ろ、6番さんの前に行列が……!? あっあっ貢がないで! 貢がないで!
うちはそういうのダメなんですーっ!」
見るからにダメそうな露店でウキウキ買い物をする3番。知らない間に新興宗教を作り上げつつある6番。2番はその二人の間を飛び回りながら、全力でツッコミを入れつつ何とかせんと頑張っていた。
「…………」
時折人型の方がよちよち……と2番を宥めるように頬を寄せている。2番はそれだけを頼りにまたヤバそうな露店に突っ込む3番を回収し、6番の前に出来つつあった行列を強引に追い払っていた。歩き回っているのは人型の方なのだが、2番の方が息切れしている。
「はあっ、はぁ……はぁ……はぁ………」
「有意義な時間だったね」
「楽しかったですねー」
「有意義じゃない……! たのしくない……!」
「では僭越ながらわたしが楽しくなるようにしてあげましょうねぇ」
「イヤーッ!!!! 人体改造される! 楽しい以外の感情を消される! 喜怒哀楽を楽楽楽楽にされるぅ!」
ぷるぷるとマフラーの中でうずくまる2番。6番はそんな2番をみてくすくす笑うが、3番は少し興味深そうに2番の方へ身体を傾けた。
「おや……『人体』改造なのかい?」
「人ですから! 今はちょーっと身体がないだけでぼくだって人ですよぅ!!」
「それは興味深い。……私も君の中身が気になってきたな」
「ひぃぃぃ! デッドオアデッド!!!!」
─北極組─
「…………」
「…………」
「ア! ホッキョクギツネチャン! カワイイ~~♡ キュート デスネ! オフタリモ
ミテミテ クダサイ~~!」
「0番」
「!! ハイッ! ナニナニ、ナンデショー!」
「そちらの器具を取ってくれぬか」
「……ハイ」
─街組─
「あらまぁ! 見ない子ね、かわいい子ねー!」
「ちょっと、あなた細くない? ちゃんと食べてるの? ほら! これあげるから!」
「えー、だれだれ? その子だれ? かっわいい!」
「モテモテだね、2番君は」
「モテモテですねー」
「ぴぎゃあああああ………」
女性たちの集団の真ん中で2番が弱々しい悲鳴をあげる。しかし女性たちは気にした様子もなく、人型を囲んでいた。
3番と6番のために飛びまわる2番、そしてその2番を運ぶ人型を見た女性たちが「あらまぁこんなに歩き回って……」と心配して近寄ったところ、人型のかわいさに気が付き囲んでいる状態だ。
人型は無表情だが、人々に話しかけられる度にそっちを向いており結果としてその場をぐるぐる歩き回り続けている。2番はマフラーの下で握りつぶされるゴムボールのような悲鳴をあげていた。
「どうやって助けてあげようかな?」
「助けてあげますー? モテてるだけなら見ててもいいと思いますけどねぇ」
「でも回り続ける人型君が不憫じゃないかい?」
「あぁ、それは確かに。地球みたいにぐるぐる回っちゃって、このままだと目を回してしまいそうですねぇ」
「ぼくは~~!? ぼくは助けてくれないんですか!?」
「2番君の悲鳴が聞こえた気がするなぁ」
「わたしには聞こえませんでしたね。気の所為と言う奴では?」
「ぷぎー!」
人型の腕に焼き菓子やら飴やらが積まれる。それらひとつひとつを受け取りながら、人型がペコペコと頭を下げる。
誰かの腕に絡まっているのかマフラーは強引に引っ張られ、その度にマフラーで締め付けられる2番からは空気の抜ける音がした。
「あれが0番たちへのお土産になりそうだね」
「2番の性格なら皆さんにあげそうですもんねー」
「0番たちも楽しんでるだろうね。だって北極だろう? 面白くないわけが無い……!
いいなぁ、私も行きたかったよ」
「あはは~~……。あの三人で?」
─北極組─
「…………」
「…………」
「ハイ! ナントココデ! テカラ カワイイ ユキウサギチャンガ! デテキマシタ!」
「…………」
「現在作業実行中です。最優先に作業を設定しています」
「サギョウ ガンバリマス! エイ! ヤァ! トウ! ハァッ! ゼェゼェ、ナカナカ
ヤリマスネ……!」
「…………」
「現在作業実行中です。最優先に作業を設定しています」
「ソロソロ オヒルニ シマショウ! エ、サッキ タベタ バッカリ? アチャー、ウッカリ!
テへ!」
「ふむ……」
「! イチバンサン! キュウニ タッテ ドウシタンデスカ?」
「ユー様の心拍数の増加が確認されました」
「これでここの作業は終わりじゃの」
「! オ、オワリ……?」
「お疲れ様でした」
「ご苦労じゃった」
「オ、オツカレサマデシターッ!」
「ではポイント2に移動しましょう。そちらで作業を再開します」
「あぁ」
「…………………。ハイ………」
資料 観測タイム過去最短記録更新記念
第六観測所の仕事は名前の通り、観測である。もちろんデータをまとめたり情報を収集したり、といった仕事も存在するがそれはあくまで「観測」のための仕事であり、最も重要な仕事は観測なのである。
そして観測は、現地に行くこともあれば観測所内で行われることもある。
「タイショウ ハッケン! モニターニ ウツシマスネ!」
観測所内に複数ある観測専用室。その中の04号室には職員全員が揃っていた。0番が意気揚々とボタンを押せば、壁に取り付けられた巨大なモニターがぱっと明るくなる。
そこに映りこんだのは、朽ち果て滅んだ世界だった。灰色の瓦礫が積み上がり、どこからか煙がたっている。車の破片があちこちに転がっており、壊れた信号機や電柱もあった。
その世界の中心には、黒く蠢く怪物がいる。全身を包む鱗は艶めかしく光っており、体についた無数の瞳は各々好きなところを見つめていた。
口らしき穴の中には舌のようなデザインの触手がみっちり生えており、それらが瓦礫を絡めとっては喉の奥に押し込んでいる。
瓦礫たちがおもちゃに見えるほど大きなそれは、その巨体を引きずりながらゆっくり移動していた。
「ハーイ! ウツリマシタ! コンカイノ シュウマツゲンイン デスネ!」
「ふむ、地球から見た宇宙生命体の飛来か……。比較的多いパターンじゃの」
「でも大型怪獣一体、なんて珍しくないかい? もう少し小柄のが何体か、ってパターンが一番多かった気がするけれど」
「パターンよりあの怪獣ですよー。あーあ、サンプル採取したかったなぁ」
0番、1番、3番、6番がそれぞれのんびり話す中、2番がぶんぶんと手を振る。
「わーっ! カメラカメラカメラ! カメラの方に近づいてきてますよぅ! カメラ壊されちゃう!」
「アッ!」
警告虚しく、ゴツゴツとした鱗がモニターに大きく映し出された直後モニターは暗転した。
「お疲れ様でした。記録は1分16秒です」
瞬間、今まで黙っていた5番が口を開く。0番がガックシ! と口で言いながら大袈裟に肩を落とした。
「カコ サイタン キロク コウシン!」
「今回は位置も悪かったの。怪物に近すぎた」
「わたしも今回は無理だなって思いましたねー。カメラ壊れちゃうのも時間の問題だったのでは?」
落ち込む0番に1番と6番が声をかける。その隣でデータをまとめていた5番が口を開いた。
「世界観測シュミレーションを再開しますか? 現在のモードは終末理由ランダム、カメラ位置ランダム、時代設定ランダム、惑星設定地球となっております」
「ぼく、カメラ操作ばっかりで疲れました! みんなが良かったら休憩、したいかな?
なんて……」
2番の言葉に他の職員たちが肯定の返事をする。それを眺めた後、5番は頷いた。
「シュミレーションをスリープモードに移行します。またタイマーを30分に設定しました」
「タイマー! ツマリ キュウケイハ サンジュップン ダケ デスカ!? ヒィ、ブラック……プルプル……」
「30分もあれば十分じゃろう」
「30分を何分に延ばせるか、楽しみだね」
「伸ばしちゃだめですよ……!」
職員たちはそう言いつつ、いそいそとモニターから離れる。モニターには「世界観測シュミレーション
スリープ移行中」と記されていた。
これはいわゆる訓練の一つである。世界観測では次元や世界線を越えて映像を取得できる特殊なカメラを使うこともあるのだが、如何せんこのカメラはかなり動かしづらいのだ。
少し右に動かすだけでも次元の固定、世界線の指定、などなどやることが山積みなのである。そのカメラを動かすためのシュミレーションがこの世界観測シュミレーションだ。
「でも、次は本番だろう?」
6番の言葉に職員たちがモニターを振り返る。そして、小さく頷いた。
「ホンバン モ ガンバリマス!」
「本番では初期カメラ位置を弄るかの。今回みたいなところに出現しては困るわい」
「うん。なかったことにならないよう、僕らが記録しないと……」
「そうだね。本番は私も頑張ろうかな」
「はい。30分後に世界観測システムを起動します」
6番は職員たちの返事を聞いてにこりと頷いた。髪がたれ、天使の輪が頭の動きに合わせて傾く。
「現在は休憩時間ですのでご自由にお過ごしください。お茶をいれてきましょう」
「ア! オテツダイ シマス!」
5番と0番が部屋を出ていく。誰かがお菓子を出して、誰かが椅子を用意してする。
仕事前の安らかな時間を、職員たちは自由に過ごしていた。
資料 観測タイム過去最短記録更新記念
「おい3番、お前のレポートはなんじゃ。誰も紙飛行機のレシピログを出せとは言っておらん。紙飛行機を二百メートル飛ばすためだけに観測所の魔術用機器を使うな」
「6番様、記録提出ありがとうございます。規定データ量に足りていないので再提出をお願いします」
「ア! ココニアッタ ハズノ ワタシノデータハ!? アーア、ダレカ モッテッチャッタカナー。シカタナイナー。カンペキニ
オワッテタノニ ダセナイナー。シカタナイナー」
「あーん! データが足りないよぅ! おかしい……! おかしい! この前参照用のデータを集めたはずなのに!
足りてるはずなのに足りない! 一枚足りないー!!」
ぎゃあぎゃあわいわいと声が飛びまわる。場所は第六観測所のとある一室。職員たちはそこに集まり、特別忙しそうに仕事をしていた。
「ふふ、実は紙を四十二回折って長距離飛行が可能な紙飛行機を作るすべを見つけてね。感動のあまりレポートにしたためたのさ
」 「それはそれは、月にも届きそうな紙飛行機ですねー」
「仕事用のレポート用紙に書くでない! そもそも仕事をしろ!」
忙しそうなメンバーたちの隣で、3番と6番は優雅にお茶を飲んでいた。お茶請けとして皿に乗ったクッキーがあるものの、食べても食べてもそのクッキーが減る様子はない。
「ユー様、データの紛失でしたら私が力になりますが」
「ギク!! イ、イヤー、イイカナァ……? エ、エヘヘ……」
「良い。分かりました。手伝います」
「イヤーッ! チガウチガウ! ケッコウデス ノ イイデス!!!」
5番が善意に溢れた言葉をこぼし、0番がヘルメットが外れそうな勢いで首を振る中。2番が恐る恐ると言ったように手を上げる。それをみて人型も小さく手を挙げる。
「5番くん……! よ、良かったらぼくのデータも探してもらっていい……? 提出用テキストデータのラストページ部分が見当たらなくて……」
「お任せ下さい」
「タ、タスカッタァ……」
「ユー様のデータと並行してお探しします」
「タスカッテ ナカッタ!」
大わらわのメンバーたちと終わっていないのに落ち着いているメンバーたちを見つめ、5番は通達のために口を開く。
「今回の観測記録の提出期限は地球暦の11月17日となっています。11月17日まで残り13時間と12分です。補佐役に回った1番様以外は全員提出ですので、お気をつけください」
5番からの念押しに、優雅なお茶会を続けていた6番はお茶のカップを傾けた。
「ふふ。5番さん、わたしのデータは再提出ですか?」
「はい。データが足りていません」
「おやおや、大変だね6番。手伝おうか?」
「3番、お前はまず自分の提出用データを作れ」
「おやおや、私のデータはもうあると思うけれど」
「紙飛行機レシピログはいらん」
「まぁ、待ってくださいよ。5番さん」
6番は話の間にコンピューターへと手をかざし、データの捜索をしている5番の方に視線を向けた。5番は律儀に6番の言葉を待っている。
「実はデータを自動作成、自動記録してくれるシステムを作ってみたんです。あと五分ほどで作成が終了するので待っていてください。自動更新されると思いますよ」
「なるほど。分かりました」
頷いた5番の隣で2番が驚愕の表情を浮かべる。人型もそれを真似、自分の口元に手を当てる。
「ええっ! あの……あの6番さんが……!? 仕事に関係する発明を……!?」
「2番さん?」
「ひぃっ! ごめんなさい6番さん! 許してください~~っ!」
丸くなる2番。微笑む6番。6番の前に座った3番は二人のやり取りを微笑ましそうに見つめた後、お茶をひとくち飲んだ。
「で、3番。お主は何を優雅に茶を飲んでおる。データを作るんじゃぞ」
「もちろん。迷惑はかけないつもりだよ」
「どの口が言っておるんじゃ?」
「あ、あれ?」
と、そこで2番が疑問の声を上げた。2番はきょろきょろと辺りを見渡す。
「あ、あの……えっと……」
「なんじゃ。怒らんからはっきりと申せ」
「0番さん……どこにいったんでしょう?」
その言葉に1番が先程の2番同様辺りを見渡す。しかしあの特徴的なうさみみはどこにも無い。
「……逃げおったか」
「逃げられたのかい?」
「現在データ捜索中ですが、カメラデータからユー様を探すことも可能です。作業効率が21%ダウンします」
「いや、いい。しばらく待ったら帰ってくるじゃろ」
2番がうろちょろしながら辺りを探っている。5番は引き続きデータを漁っている。3番は変わらずデータ作成の義務などないかのように振舞っている。
「あ、出来ましたー」
と、そこで6番が声を上げた。6番はいつの間にかタブレットを手に持っており、そこにはテキストデータが表示されている。
「出来たか、はよう出せ」
「はい、どーぞ」
「こちらのデータは紙飛行機の滞空時間を長くするためのレポートデータです」
「……お前」
「あはは、うっかり間違えちゃいましたー」
「おそろいだね、6番君」
「はぁ……」
「や、やっぱり一筋縄じゃいきませんね……。あっ、5番さん。ぼくのラストページ……ありました?」
面白かったのかケラケラ笑っている6番を差し置いて、2番が5番を覗き込む。5番はかざしていた手を下ろした。
「データが膨大なため、まだ見つかっていませんが……」
「う、うぅ……やっぱりなくしちゃったのかな……」
「『ゴクヒ! エツランゲンキン! 0番スーパーレポート!』をロックされた機密ファイルの中から見つけました」
「よし、見てみようじゃないか」
「食いつくな、3番」
データを出せ出せと言われてもずっと座っていた3番がすっと5番に近寄る。目にも止まらぬ速さに1番が呆れて息を吐いた。
「だが、1番も見たいだろう?」
「補佐として確認するのは当然の義務じゃろ?」
「ぼくも気になります……!」
「わたしもみたいなぁ。さぞ面白いことが書いてあるんだろうね」
全員が近寄ってきたため、5番はではといってモニターの前で指をスライドさせる。するとモニターには『ゴクヒ!
エツランゲンキン! 0番スーパーレポート!』と書かれたファイルが表示された。
「ファイルのロックを解除します」
「マテー!!!!!」
ずざぁ! と部屋に滑り込んできたのはうさみみ付きのヘルメット、0番だ。0番は両手を振り回しながら5番とモニターの間に入り込む。
「ダメダメダメデス! モー! デリカシー! モー!」
「5番」
「何かご用事ですか、1番様」
「ム、ムシ……!?!?!?」
1番が0番を指さす。そして、淡々と言った。
「11月17日までに0番のデータ提出がなかった場合、そのデータを全職員に閲覧可能な状態で送付してくれんか」
「了解しました。設定します」
「ギャー!?!? オニ! アクマ! オジイチャン!」
「はわわ……」
「これで0番は間違いなく提出するじゃろ」
あとは3番と6番じゃ、と付け加える1番にぼくもデータが見つかり次第頑張ります……と2番が囁く。
「私の方でもデータの捜索を勧めます」
「大変だねぇ」
「6番様もデータ提出をお願いします」
「あはは、」
床に倒れ込む0番。またコンピューターに手をかざす5番。笑う6番。
「……さて、来る11月17日」
「どんな風になるのかな?」
そんな職員たちを見つめながら、3番がふっと微笑んで囁いた。